一本の枝/
梓ゆい
玄関に立てかけた杖はじっと待っている。
亡き主が現れて
大きな手で磨いた柄を握り
ゆっくりと茶色の引き戸を開けるのを。
少し強い日差しは軒先を暖めて
二匹の猫が主の椅子の上で
日向ぼっこを始めている。
草取りをした庭先
遠くを見つめる猫たちの目には
何が見えているのだろうか?
今でもずっと
会いたいと願う。
一本の杖に身体を支えられて
いつまでも手を振る
在りし日のあなたに。
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