終着の浜辺/岡部淳太郎
不幸な者が飢えるのは
あまりにも遠くを見すぎるためだ
降りそそぐ朝の洗礼に
われわれの首筋は鈍く痙攣する
釣り上げられた魚が
苦しげに未完の呼吸へ焦るように
われわれは前夜の遂げられなかったまぼろしの
残り香で寝床に紙魚(しみ)をつくる
海が聴こえる
その音は まだ遠いか
不安な夜にひとりで渇く
われわれはそれぞれにひとりである
月は空の片隅で濡れ
皿は割れて離れ離れになる
巡礼者は祈りをひとつずつ丁寧に
真綿で締め上げ微笑みながら歩き出す
われわれは今夜の未完の計画のために
凪の街角でそれぞれにふぶき始める
川が流れる
海までは まだ遠いか
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