カメレオンの脳味噌/ホロウ・シカエルボク
我々は遺伝子の中で知り得ることを調整して少しずつ進化していくことしか出来ない」「人間は生きている間にそれを何度も繰り返すことが出来る」カメレオンの脳味噌は少しの間沈黙して、また話し始める、声のトーンが少し重いものになる、「進化から逃げちゃ駄目だ」「いまあんたの中にある確信はいまを生きるためのものに過ぎない」「それはいまが過ぎれば何の意味もないものになる、いや、本当にそうなるんだ」「生きるのに確信は必要ない」「必要なのは変化を受け止める姿勢だけだ」そしてカメレオンの脳味噌は突然欠伸をする「そろそろお別れのようだ」「あんたと話すことが出来て楽しかったよ」「変わった喰らいかたをしてくれてありがとう―あの世で自慢出来るよ」そうしてカメレオンの脳味噌はいなくなる―現実に戻った俺はどうしようもない吐気に気付く、流しに駆け寄って嘔吐する、長く、長く―細い、赤茶けた液体が蛇口から溢れる水に巻かれて排水口へと流れ落ちていく、それがようやく収まった時、俺は口を濯ぎ、排水口に向かって詫びる
「悪いな―流れちまった」
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