鈍色の匙/ただのみきや
をしてももう二度と
同じように夢を見ることはない
足りないくらいが丁度いい
あと少し欲しいくらいが
注がれた部屋一杯分の時間
モノクロの音楽と虹色の記憶をかき混ぜる
――鈍色のさじ加減
がむしゃらに自分の闇を照らそうとした時代の
つけを支払うような暮らしの巡りにも
新しい時代の歌声が流れるように
今この時代の歌ではなく
未来への予感を
赤ん坊の泣き声を
追い縋ることなく
眺めながら
遥かに開けた地平の向こう
焦がれることなく
想いながら
旅人がひと気のない土地で見かける
低く奇妙に捻じれた樹のように
時に光を纏い影を濃く
喜びと悲しみを縫い合わせては
雨にうなだれ朴訥に
風と踊るように
瞑るように
眺めながら
――ちいさな鉢植えの土の乾き
わたしはわたしを養う
なにかを養うことで
《鈍色の匙:2016年11月23日》
戻る 編 削 Point(15)