赤いぼろきれと蜘蛛/田中修子
いくつかの時代が過ぎました。
その部屋で、食べられるのが好きな女が暮らしていました。
胸は豊か、足首はすんなり、二の腕はどこまでも白く、やわらかい。 眠たそうにぼんやりとした顔には、いつも死の影が落ちていて、それでいて明るい微笑みが消えない。
夏が青ざめた夕暮れ、秋の虫が鳴き始めている季節です。はじめて北を直撃することになる、台風がやってきました。
女はこのお話を書いて、手をさっぱりさせに洗面台にゆき、骨董市で手に入れた、不思議と気になるぼろぼろの布で手をふきました。
布の赤は薄れ、あるかなきかの桃色。男が女にちらほらと落としていく、口づけの色のように。
蛇口をしめると、排水溝のところに、さっきまで元気だったはえとり蜘蛛が小さくなって死んでいました。
女はさみしそうに笑いながら、水で流してしまいました。
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