石田瑞穂詩集『耳の笹舟』について/葉leaf
 
 石田瑞穂の詩集『耳の笹舟』(思潮社)は、難聴に罹った詩人が、否応なく突き付けられる聴覚の問題と静かに闘った詩集である。詩人はあくまで言葉を用いて耳について語る。だが、そこにはその言葉の根拠となったもの、言葉を駆動するものが前提とされていて、詩人はその根源的なものへと最大限接近したうえで言葉を発しているのである。
 私―世界という対立図式が成立する以前に、私と世界が不可分で一体となっている状態が存在する。そこではいまだ認識すら生じていず、私の身体と世界とが感覚の相で合一している「感覚的なもの」のみが根源的に現前する。この感覚的なものにおいては主体と客体が分化しておらず、感覚がそのものとして現前す
[次のページ]
戻る   Point(1)