バラナシにて ?/狸亭
たちが駆けて行く
砂埃が吹き寄せる。
いきなり運転手の脇の窓に
大きな黒い水牛の体がぶつかった
牛の目が見開かれ不思議そうにこちらを見つめる
何という温和で豊かな表情だろう。
牛の陰に人が群れ空き缶を振る物売りの声
ヒンディー マラーティー タミル ベンガリーの
なにやらわからぬ言葉が飛び交う
人と車が止まると
水牛の列が横切る
一頭二頭三頭四頭五頭六頭七頭八頭九頭一〇頭と
限もなく続くその後ろから
埃塗れの長い髪を靡かせて
鞭を盛った一〇歳位の瘠せた少女が駆けて行く
振り返る目の光は牛よりも強い。
自らの意思ではなく湧き出ずる泉のように
人々は湧き出して来る
屋台のパン屋 白髪白髭の聖者 水売り 花売り
穀物や燃料を頭に載せて歩く女たち
バイクに乗って走る若者も
バスに掴まる男や女も
夥しい
懸命に生き続けるしかない様々な表情の
戸惑い。
明るい真昼の太陽の下でうねり狂う大海のように
バラナシの町は生き続けている。
戻る 編 削 Point(1)