バラナシにて ?/狸亭
一九九〇年一月一六日午後三時三〇分
ガンジス河に架かる浮き橋を渡って
バラナシの町に入ると
古ぼけて崩れかかった石と煉瓦の建物の間の
狭い道路に人が湧いてくる。
インド国産の名車アンバサダーの
厚い壁に守られて窓越しに見る喧騒の渦は
底抜けに明るい混沌だ。
色とりどりのサーリーが風に舞い
満載した人間たちの重みで傾いた大型バスが十字路を曲がって来る
人込みを掻き分け警笛を鳴らす
斜めになったバスとわがアンバサダーが
正に触れなんとするその僅かな隙間に
二人乗りのスクーターが割り込もうとしている
人力車が叫ぶ
紫色の制服を着た女子学生の群れが通る
跣の子供たち
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)