不似合いな黒/ときたまこ
ねえ」って笑っていた。
あの頃から少し気を張っていたんだと思う。退行と背伸び、不釣り合いな二人。
私は君といるときだけ、全てを特別に変える魔法が使えたんだと思う。
二年後の東京も何も変わらない。歌舞伎町も怖くなくなって、新宿に愛着さえもつようになった
この眠らない街がある限り、私たちは紛れるのだ。ヒールなんて履かない私が、この冷たい街で静かに息をしている。
彼が彼女にちゃんと巡り合えますように、止まっていた時間が動きますように、自ら消えてしまいませんように。残されたものはたとえなくても、彼が明日を正しく選びますように。
いくら迷ったって、自分が選んだ道に間違いはないのだと彼女は言っていた。だから、まだ私は赤信号から離れられない。
冬が来る前に、雪が降る前に、また新しい年が来る前に、新しくなってしまう前に、
捨てるだけがお終いの合図じゃなくて、きっと全部は拾えなくたって。
この両手が抱えきれない程の何か、私がずっと着たかったあのワンピース。
肺が苦しくなるほどの酸素、呼吸、止まったら負ける、昨日の私に。
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