後の雨/春日線香
雲間から大首が降りてくるでしょう
まるで惑星ほどに巨大な首がゆっくりと地上に迫り
町は空が遮られたために暗くなります
道行く人々は自分の思いにふけり
あなたも目の前の地面をじっと見つめています
空に浮かぶ首はまったくの無表情で
口をいっぱいに大きく開けると
中から一回り小さな首を吐き出します
吐き出された首はさらに口を開き
そこから次の首が吐き出され
それからまた新しい首が
次から次へと順に吐き出されます
それでも町の人々は気づきもしませんが
あなたがふと気配を感じてうしろを振り返ると
列をなす首がすぐ背後にまで迫っていることでしょう
ただその首の群れはあなたが振り返ったことが
予想もしないことだったようにぎょっと目を剥くと
今度はちょうど映像を巻き戻すかのごとく
次から次へとひとつうしろの首の口に収まっていきます
そうして首たちがはるかな上空に消え去り
やがて何事もなかった様子で静まり返った空からは
ぽつぽつと冷たい秋の雨が落ちてきます
あなたは急いで傘を差しました
道行く人々も皆、傘を差しました
戻る 編 削 Point(2)