ダブルスライド/ただのみきや
車の中のあなたは雨 避けがたくとりとめもなく
一つの今と一つの場所が移動する 相づちは質量を残さない
「モノローグ」そう題された つめたい彫像として心臓まで
こと切れたままのラジオ スイッチを入れなければずっと
人工呼吸器を外して 車に乗せて連れ帰った日
つめたいからだのどこにも スイッチは見つからなかった
一つの今と一つの場所が移動する 遠く離れれば記憶は夢の香を帯びる
これから先に起こることも 今はまだ胎児の見る夢
霧雨を包み込んで車を下りる この曖昧な顔は誰だ
祈りに繋がれた骨のおと 遠くから今へ近づいて
車はUターン わたしはわたしへ遠くから近づいて
《ダブルスライド:2016年10月19日》
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