桜前線/天野茂典
 
 いま桜前線は
 沖縄を去って 
 海上にあるという
 海上に桜の木があったら
 どんなお花見ができるのだろう
 南海のきれいな海で
 大漁旗あげて船の上から
 酔っ払ってゆくのだ
 桜の木は人を酔わせる実がある
 春を告げる
 桜前線
 上野の森でも
 芽がでているそうだ
 今月下旬には
 東京でも花見ができるだろう
 桜の花が美しいのは
 動物の死骸が埋まっているからだといったのは
 梶井基次郎だが
 動物の脂を吸ってあんなに淡白な花を咲かせるなんて
 桜も罪な花だなあ
 たそがれの花の満開の下にいると
 気が触れるようになる
 圧倒的な
 花びらの美しさに
 負けてしまうのだ
 桜とシンパシーする
 視床下部
 桜ふぶきの中でぼくは
 帰るところを失ってしまうのだ

 あのこもずっと去年より
 きれいになっていることだろう



             2005・03・02
             

   
 
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