にょいりんさん/白島真
んさあ〜ん、にょいりんさぁ〜ん
あいかわらず声は耳元でささやくように聞こえてくる
わたしはその声に呼ばれ寝静まった街をさまよった
どこから聞こえてくるのか方向さえわからないのに
何故か歩きつづけなければいけない気がしていた
にょいりんさあ〜ん、にょいりんさぁ〜ん
にょいりんさあ〜ん、にょいりんさぁ〜ん
みえない声にどこかで犬が感応して遠吠えを始めた
鳥が三羽、薄明りのなか、ざわざわとざわめきだった
黒い揚羽蝶が一匹、雲のあわいに吸い込まれていった
きょうは五十年も前に死んだ父の命日だったのだ
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