獣/草野春心
 


  瞼の裏に映る沢山の図形
  それがわたしたちの暮らす町
  暗がりに潜む毛むくじゃらの歪み


  へし折れ・砕けながら結びあう雑踏
  港の船が夕暮れの光に燃えあがるとき
  西風は 決意に似た乾きをまとい
  二人を凍えさせる悲しささえ
  力任せに抱きしめたくなる


  ずっと わたしたちは
  何処へも帰れないだろう
  唇をふるわせるほど静かで
  酷(むご)い 獣のような愛を
  もう知ってしまった



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