秋の夜の夢/ヒヤシンス
二人の天使が私のために降りてくる、あの星空の彼方から。
一人は私を引き上げ、一人はそれを支えた。
感情の渦を通り抜け、感性の輪を広げ、創造の平野を飛び立った。
それを逃避だと誰が言えるだろう?
純白の天使は虹色のヴェールを纏い、誰かのレクイエムを歌っている。
それは私のレクイエムだ。
天上へ昇ってゆくとき、薔薇の咲く庭園を見た。
金木犀の香る緑道も見た。
大平原に咲くラベンダーも見た。
思い出の庭に実る蜜柑の木も見た。
そして忘れた。植物も動物も、心に根付く悲しみさえも。
行く手には銀河があるばかりだ。
忘却を私は初めて怖れた。
心が震えた。
生きていたい、そう思った。
そしてそれは過去も未来も背負ってゆくことだと知った。
強く生きていたい。
気が付くと、私は自分の机の前にいた。
机上のノートに天使が二人、書きなぐってあった。
天使が微笑んでいるように私には見えた。
私はその二人の天使の横に力強く、生きる、と書いた。
少し肌寒い秋の夜のことだった。
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