水の簾/白島真
水の簾(すだれ)がそこかしこに垂れ下がっている夏の部屋に居て、ぼくはもうあの郵便配達夫が来ないことを知っている。ぼくの胸のなかには白い綿毛のようなほわほわした生命体がいつも棲みついていて、手紙のように詩を書き、詩のように手紙を書くときそいつは言葉の透明度を勝手に測ったりする。ぼくの許しも得ずに。
波に沈んだ難破船で羅針盤だけが動いているように、奴は死んだ者たちにぼくの言葉で勝手に手紙書いたり、美しい銀河の連弾を装って一台のピアノの暗い譜面台に長い休止符を置いたりする。
その時ぼくは一行も文字が書けなくなる。
余計なお世話だといつも思うのだが、胸に言葉のナイフを突き
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