鎮魂の霧雨/高林 光
秋の細い雨が降る朝
毎日通る通勤路の道路脇に
今日も静かに、丁寧に置かれた小さな花束
三年
置かれる花は変わってきたけれど
変わることができないこともまだあるのだと気づく
止まってしまったことの多くは
あたりまえのように変わっていくこととの齟齬に
身の置き処をなくしている
過ぎてしまったことに胸の痛みを感じたり
もう二度と思い出したくないことが不意に自分を満たして
身動きが取れなくなったりすることに
どうしようもない苦しみを感じて自分を溶かしてしまいそうになるならば
それは
まだ生きているということを確認しているのと同じだ
夕立のあとの空
雲の切れ間から零れる太陽の破片に
明日の希望を感じるだけが
時間の流れではないだろう
空ばかりを見ていてはいけない
移ろいにばかり目を奪われてはいけない
微かに少しずつ変わっていくものを
そして
静かに時間の流れを止めてしまったものを
見失ってはいけない
早朝に降る秋の細い雨は
あなたの魂を鎮めますか
それとも
私の心を鎮めただけですか
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