くすねた財宝/ただのみきや
 
カーテンの向こう暑くなると告げて
にわかに泣きだすそら

すぐに澄み
そこなしの青の静けさへ
置き忘れられた幾筋かの羽毛は
朝へと生まれ落ちた夢たちの骸
季節の手妻は継目も見せず
ゆっくりと素早い
傍観者だからこそ
御捻りでも放るつもりで
だがもう天真爛漫はない
どこかで声を聴き
どこかで見つけても
遠くから露出を絞るだけだ
このごろは紫陽花も若さを失くし
どことなくうつむきがちに陽の白粉を塗り
目を合わさずに迎えてくれる
弾けるような水色や赤紫の時代は終わり
今はくすんだ色香を漂わせる
真に枯れて果てるまで
長くて短い手紙が綴られるだろう
この世界には
美しいものがあるわけではなく
美しいと感じる心があるだけだ
そんな財宝を少しくすねて来たから
サマヨッテ
醒めずに酔って
擬人の冠をそっと捧げるのだ
巡る季節よ 愛人たちよ
濁った瞳は伊達じゃない
佇むための時と場所が奥へと続いている




            《くすねた財宝:2016年9月7日》







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