フィカス・ウンベラータ/高林 光
 
土曜日の午後
少しけだるい空気の中で
僕の前に座る女と
その後ろの大きな観葉樹
いつも小さな女の話し声が
今日はより小さく感じて
僕にはいくつかの言葉を聞き取ることができない

それなりに長い間生きていると
知らないほうがいいことだってあると気づく
聞き取ることができなかった女の言葉に
それほど執着しなくなったのは
そのためかもしれない

そんな都合のいいことを考えていると、ふと
女の後ろに立つ観葉樹のハート型をした大きな葉が
聞き耳を立ててこちらを向いているような気がして
僕が聞き逃した女の言葉たちが
観葉樹の大きな葉に吸い込まれていく
もしかしたら
言葉
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