並木道/もっぷ
。きょうはめちゃめちゃ暗い私で居るんだと決定する。
「誰からも電話が来ませんように」
とうそぶいてだけど電源を切ることをせずに携帯を握りしめる。脳裏をよぎるあの顔この顔。誰ならば…、誰ならばどうだというのだろう、ただわかっているのはいま、切実に誰かの(人間の)声を聴きたい、ということだった。
吹っ切るように、ついに思い切ってカーテンを勢いよく開けてみた。紫陽花が見えた。そのまま両腕を持ち上げて伸びをしていると、ふいに右手に持ったままだった携帯が鳴った。
「並ちゃん、もしよかったら私と昼から飲んじゃおうか。雨、上がるらしいよ」
佐川さんからだった。確かに向こうの空が明るい。そして「並子さん」ではなく「並ちゃん」って。それっていいかも…。
「佐川さん、はい!」
こどもみたいにはしゃぐ心を隠せずに返事をしながら私には、大好きな小花柄のワンピースを着て日傘も差さずに歩いている自分の姿がもう、窓からの紫陽花よりもはっきりと見えていた。
戻る 編 削 Point(1)