並木道/もっぷ
 

 佐川さんは、入社の初日も無事にこなしほっとして帰り支度を始めた私に、そっと耳打ちしてくれている。気の利く優しい女性であるという直感はまだ、裏切られてはいない。

 並子と名づけられた私は就学前、幼稚園から帰ると天候さえ許せばいつでも庭に居た。プレハブの建て売りだったし、たぶんいまの私の背丈では考えられないことだけれど当時の少女にとってならその庭は計り知れない輝く未知の宝庫だった。
 彼女は四季にスミレを視ていた、たとえ十二月でも。理屈ではない、そのちいさな雑草にまるで恋するような、あたかも思春期のごとくの熱を懐いてほんとうに恋をしていた。ほかの草花をも大切に想っていたし、彼女が好む彼らは
[次のページ]
戻る   Point(1)