片隅/春日線香
 
台風の日の晩い午後
閉めきった廃屋の一室で
男の首が宙に浮き
静かにゆっくりと回転している
目蓋はかたく閉じられて
堪えられないように
時に苦悶の表情を浮かべている
(ということは首だけで生きているということだ)
彼の表情が何を語るのか
あるいは彼の表情に
読み取るべきものが本当にあるのか
何もかもが束の間の冗談なのではないか
それは秘されているが
片隅にはこういうものがひっそりと生きている
それだけは確かだ
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