夏のスケッチ/そらの珊瑚
 
糸杉の並んだ道
夏のただ中だった
一歩歩くごとに
汗は蒸発していき
肌に残されたものは
べとつくだけの塩辛さだった

暑さのあまり
蝉の声さえ途絶えた
世界には
わたしとあなたしか
いないのかもしれない
という
得体の知れない悲しみと喜び
相反する心は
歩いていくための
双子のストックでもあった

あなたのあとを
ずっとついて行きたかった
あなたが止まれば
わたしも止まり
そんな時は気づかれないように
わたしはさらりと糸杉になったりもした
数メートルの距離を保ったまま
あなたの連れる影の後ろに入るともなく
こっそりと歩いていきたかった

あなたは背負った荷物の重さで
少しばかり左に傾いて
デッサンの狂い始めた
一枚のスケッチになった
鉛筆の芯さえ溶ける熱風
白い画用紙が
ふいにめくれて
あなたを見失う
そして
途方に暮れる
燃え尽きるはずだったのに
消滅したのだ

糸杉は或いは幻で
人の群れであった
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