キコエマスカ/あおい満月
 
(あれはなんだったのか)
わからないまま水を飲み干す。

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時間という道標には、
解明できない何かが隠れている。
まっすぐに歩いている道でさえ、
迷路になっていることもある。
いつものバスに乗り、
いつもの電車に乗り、
いつもの地下道を歩き、
いつもの信号を渡り、
いつもの箱に入り、
いつもの作業をする。
こんなごく当たり前の道順の先にさえ、
いつ躓いてもおかしくない罅がある。
その罅のなかに、
あの老女のようなものが、
潜んでいるのか。
あるいは、
害を与えない、
自身のうちにある、
孤独の背中の陰が。

外は、晴れていた。

(声がきこえますか)

(声がきこえますか)

まだあの声は、
壊れた目覚まし時計になって
私の海馬を齧っている。


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