みずうみに漣を/もっぷ
演奏会の時には一番後ろの椅子のままで私は終わりました
初秋の朝、風が窓辺に腰掛けて静かに凪いでいる
この白髪はさぞ目立ったことでしょう
彼の故郷のみずうみは人知れず朝陽に煌く
家族たちはいったいこのみすぼらしさをどう見ていたことでしょう
みずうみの近くで 野葡萄の黒い実が艶めきを増す
最後の日、それなのに新しい靴を私にプレゼントしてくれて
いまだみどりの樹に 帰る渡りが「ありがとう」を告げている
会場で見えるわけもない靴ですがなぜだかすこし
木梢が気持ちを伝え返す
私の弾く音色も誇り高く響いた気がして
みずうみの色彩が移ろう
客席の最前列では家族の皆が首を傾けるだけ傾けて
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