二人の朝/……とある蛙
八月一五日、僕は早朝仏壇の前で線香を上げ
手を合わせ、妻の位牌に向かって詩の息を吹きかける。
随分長い間詩を書かなくなった僕は肺の中にたくさんの思いが膨らんでしまい
他人様には気づかれないよう、そっと、ふーうっと息を吐きながら生き長らえていたのだ。
それでも時々頭の隅にあぐらをかいている妻が僕に向かって息を吹きかける。
そのたびに僕の肺はたくさんの思いが膨らんでしまい
息苦しくなってしまうのだった。せめて八月一五日くらいは盛大に息を吐かねば
きっと僕はあの蛙のように肺を爆発させて死んでしまうのだろう。
僕はこの日だけは妻の位牌に息を吹きかける。
その息はへたくそな詩になってしまっているが、
でも、妻はその日だけは僕の頭の隅っこであぐらをかいてはいない
二人っきりの夏の朝のセレモニー
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