影のこと/はるな
 
いしょのうちはばたばたして頻繁に実家へ戻っていたし、そもそもそのすこし前から家には朝がた眠りに帰るような生活をしていたし。それから引越しをして、そのあともう一度住む場所がかわって、ここにいる。どこにも根付きたくないかもしれない、かといって結婚するまでいた土地にそれほど愛着があるわけでもなく、ただ、ここのひと、になるのがこわい。そうすると、もう一歩も動けないまま、全部ほんとうになってしまう、と思う。
ほんとうになってしまうのはこわい。こわいこわい、と思って過ごしていた一日からわたしを守っていた娘の魔法は、でもまだぜんぶは解けずにくるぶしのあたりに残っていて、どうしようもなくうずくまるときにだけ頭を撫でてくれる。


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