なにかが見ている/ただのみきや
 
風が聞き耳を立てている
囀りは力なく水滴に跳ねて
その術を忘れたかのよう
石は本来の姿を取り戻した
木の根元をのそのそシデムシが
葬式帰りの太った男のように歩く
異変 ではなく
変わらない なにか
目も耳も気道の全ても
塞ごうと 見張っている
抜け目なく静かに
朝に紛れてうかがっている
病める者の幻のように


皮膚の上の迷路を
二本の指が歩いている
マリリン・モンローみたいに左に右に揺れながら
毛虫の襟巻をして
瞬間の叫びを吸い取る厚みのない顔が
刻々剥がれ足跡のように過去は老いる
思考後の灰が
頭骨のどこか隙間から漏れる
音がする
風が聞き耳を立
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