花火/ただのみきや
 
遠く 花火の音がする
――美しい闇の舞台
  光たちの素早い集団行動
ここからは見えないけど
どこかで
手をつなぎ
見上げている男女がいて
はしゃいだり
肩車されたり
こどもたちもいて
昼のように蒸し暑い
夜の帳の中で愉しんでいるのだろう


――痛恨 網戸の閉め忘れ
シタールの音色に合わせ
蚊取り線香のけむりが無形のまま立って歩きだす
夏の夏らしい群像を
掌くらいの幽霊にして
愚かしいほど部屋に浮かべては
言葉未満の震えに
一℃二℃涼しい
気がして
団扇を片手に横たわり
読みかけのタイトルは「逃亡派」
花火の音はもうしない


夜は{ルビ堪
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