夏の神々/ひだかたけし
ミンミン蝉の鳴き声がすぐ間近から聴こえる
用水路沿いの遊歩道左脇の樹木からだ
僕がその樹木に近付くのとほぼ同時にその蝉は鳴き始めた
樹木脇をそのまま通り過ぎようとして僕はふと足を止めた
余りに元気良く鳴いているその蝉の姿が見たくなったのだ
〇
樹木を子細に見ようと立ち止まり眼瞼けいれん用の遮光サングラスを外した
途端に無数の白い光の矢が眼に降り注ぎ太陽の熱が頭から爪先まで一気に貫く
全身から汗が噴き出し身体が勝手に揺れ捩れ僕はその場にうずくまる
今さっきまでクーラーがガンガン効いた部屋に閉じこもっていた肉体が剥き出しの夏の大気に曝され一気に呑み込まれようとしていたのだ
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