光の海へ/夜雨
 
 星空が高く
 何処までも高く開ける時
 朝になると、谷地田は靄に埋まり
 私は小さな海獣になる

 息を止めて、靄の中を泳ぎ渡り
 畦道に惑う農夫の傍らをすり抜け
 草蔭に潜む雉の飢えた嘴(はし)先をかわして
 家路へと向かう猪の直情よりも速く
 私は冷たい靄の海を
 高台の榎(えのき)目差して、まっしぐらに急ぐ

 七月の朝
 山の端に太陽が姿を現し
 榎の梢に光が差す時
 谷地田の冷たい靄の海は忽ち熱く沸騰し
 やがて光の海となる

 私は海獣の衣を脱ぎ捨てると
 鶚(みさご)の翼で舞い上がるのだ

 海へ
 光の海へ

 泡立つ波間に
 輝く独りの帆を上げる
 君の空へ
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