藝術としての詩 続/天才詩人
Aは後部座席で俺の隣に座り、手を握った。「クリスマスや年末の数日間は、いつも親戚めぐりだから、退屈しないでね」と言う。退屈どころではなかった。町の北西部に位置する、低い屋根の住宅が続くその一画で、俺は夢のようなケーブルを敷設する構想に再び着手ようとしていた。人々は温かかった。それは見ず知らずの外国人を分け隔てなく受け入れる、というだけはでない。彼らは僕の出自や、Aとの関係についてあまり細かいことを聞かなかった。Aの親戚の日常は、ミネアポリスやドバイ、ロンドンにいる叔父や姪とのメッセンジャーでの会話やビデオ通話によって「いま・ここ」を超えたグローバルな圏域に接続している。この家の、蛍光灯に照らされたリビングルームでは、親しい人々は遠くへ去り、ふいに現れ、そしてまた去る。そして再びここに戻ったとき、まるで不在だった年月が圧縮されるように、肩を叩きあって互いの人生を祝福する。高地の冷気が充填された、リビングの外の暗い路地には、野良犬や、路上生活者がたむろし、住宅の屋根のむこうには角砂糖大の家々の灯が、なだらかな丘のはるかむこうまで這い上がっている。
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