旅/塔野夏子
 
いくつかの塔が
もの問いたげに立ちならぶ地平を見つめて
僕らは歩いた

いつからどこからこの旅がはじまったのか
その記憶さえ置いて

陽射しは遠く霞み
ピンクグレーの雲がたゆたっている今は午後

おもちゃのような街 壊れた街
宝石の街 影の街
いくつも通りすぎてきた

僕らは歩いてきた
何故か今はもうほとんど言葉を交わしもせず

雨が降り星が降り花が降り
そうすると時には僕らなんとなく
いっしょに歌ったりもするけれど

いまは単調な風のなかただ歩く
なぜこうして共に旅しているのかそれも忘れて

ただときどきひどく心が揺れるよ
もしあの塔たちのところに辿り着いたら

旅は終わるのかな
ピンクグレーの雲がしずかに形を乱して
流れはじめる

そして思いだしたように目を見交わしうなずきあって
僕らは歩きつづけてゆく

いつかまた
すべてをおもい出す日を
そこはかとなく予感しながら

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