峻厳/ヒヤシンス
 
したのだろうか。
 彼の音楽の背景に幼い天使が見えるのは私だけであろうか。
 
 程なく君は私の部屋を去って行った。
 スケッチブックだけをテーブルに置いたまま。
 そこで私は思わぬ発見をしたのだ。
 スケッチブックの最後のページ。
 正面を向いた君の肖像画。
 背景には三人の天使達が君の魂を天空へと運んでゆく光景が
 そこだけ光り輝く金色に彩色されているのを。

 もうじき夏が来る。
 少年時代の夏は楽しい記憶で満ちている。
 君は楽しい少年時代を過ごさなかったのか。
 歳をとる度に美化されてゆく過去の記憶は甘味である。
 君は記憶の中に安らぎを求めようとはしなかった。
 今日より未来へ希望をしか抱かなかったのだ。・・・絶望。
 私は君の中に一つの美を見た気がした。
 
 君と語らうことはもうないのだろう。
 部屋中にモーツァルトがゆったりと流れている。

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