桜上水/草野春心
 


  桜上水。
  蝦蟇口のなかの、みずいろにこわれていく
  春、わたしたちの優しさを回顧(おも)いだす。
  発泡酒をのみながら一銭にもならない話をしたこと、
  夜の昏さに身体を凭(もた)せて莫迦げたキスを繰返したこと、
  学校帰りに食べながら帰ったコロッケの油っこさを、
  発狂のように赤く染まっていた駅を、回顧いだす。
  桜上水。わたしたちの優しさは少しずつ、みずいろにこわれて
  硬い土のうえに投げ棄てられた後、ビー玉のように
  いつまでも笑っていたね?



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