途切れた時間。/梓ゆい
昭和十九年七月二十九日、ビルマ國ニテ戦死。
仏壇の片隅に置かれた位牌の主を
私は知らない。
毎年お盆になると
固く絞った白いタオルで先祖の位牌を磨き
家族みんなで迎え火を焚く。
夕暮れ時
縁側を通り抜ける風は涼しく
父は労わるような眼差しで
ビルマ國と書かれた位牌を
台座の上に並べた。
ビルマ國という名前が無くなり早二十年以上
遠い異国の土の上
位牌の主は戻る事が無い遺骨を風雨に晒している。
何かが出来るわけでも無いのだが
父の新しい位牌と共に
今年も一人で先祖の位牌を磨く。
涼しい風が吹く高原の夏。
炎を纏う風が吹いた南方の夏。
それらを思い忘れないでいることは
両手の位牌よりも重たい。
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