過去を捨てた男/葉leaf
は自らの過去を捨てた代償として、膨大な数の他人の過去を引き受けた。
仲間たちと温泉に入って汗を流しながら、過去を捨てた男はときおり自分が何者か分からなくなる。自分が何をしているのか分からなくなる。肉体労働者が災害復旧をしているのではない。炎のように荒れ狂う孤独が一切を燃やし尽くして、残るのはただ青空に証明された眼球の凝集のみ。他人を勇気づけたり他人を代弁することなどできない。ただこの孤独の原野に他人の過去、災害の歴史を丁寧に積み上げ、自らの眼球をくまなく投射するのみだ。
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