そして落葉樹は/もっぷ
 
 それは家路だった
  その向こうの空はかならずオレンジ色で
  その少女は
  空には青い時もある
  ということを知らなかった
  家路に背を向ければこどもは暮らせない
  背を向けてどんどん行ってしまうともう暮らせない
  だから少女は 生きたい と真摯に
  おさない夢を懐きながら自分に
  強く、願っていたのだと  思いたい


 最後の「 思いたい」が二十四年前のあの日日のことを思い出させた。いや、この一篇すべてが、彼女に彼女を思い出させた。彼女は慌てて点火を止め、とりあえず着ていたダウンの襟元をしっかりと寄せてから唯一の友人に電話ののちポケットに手をしまって、
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