そして落葉樹は/もっぷ
その落葉樹は絃となる葉をすべて失っていたが、月の明るいこの夜また、訪問者を得ることができた。
「もう、歌わせてあげられないのに」
いつものその風に、いつものように詫びてみる。
「通り道なんです、そしてあなたの枝から見える月はなぜだかほかのどの場所から見る月よりも好ましいんです」
風は応えて、馴染みの枝に腰掛ける。凪いでその丘は、一本っきりで仲間から離れて立っている冬の落葉樹と風と、あとは未明の静寂だけとなる。自分をうっとりと眺めるものたちに向けて月は、今夜はさやかな白い輝きを届けてみせた。
「きれいな色!」
まぎれもなく少女の声がした。小学校の、学年で言えば四年生か五年生か
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