音楽が聞こえる/ただのみきや
 
いが
たぶん違うのだ
揃えた草履のようにどことなく

美しい人よ
あなたは概念でしかない
恨みも憎しみもなしで
その翼の下で休みたい
愛しのセイレン
死の連綿 紅い川がどこまでも続く


こどもたちよ
別の道を往きなさい
いつも迷う象徴の森に積もった枯葉の隙間から囁きかける
海を包んだ琥珀を見つけても
そこへは飛び込むな
死と永久に結ばれたまま生の抜け殻を晒し続ける
一匹の蟻がわたしなのだ

そしてわたしとは
おれのことだ
《おれは嘘つきだ》
矛盾は思考に明滅をもたらす
即興演奏のミストーンから生まれた詩中のバグ
己の夢を貪り失くした味覚を憂いで涙を流す獏

ではあなたは誰だ
何者なのだろう
今これを読んでいるのは
――混濁しそうだ
ひと時だけそよがせて
消えてなくなるまで
一節の歌のように




         《音楽が聞こえる:2016年6月11日》









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