音楽が聞こえる/ただのみきや
フロントガラスの向こう
傘をさした女が滲んでいた
雨にうなだれる花のように
あれは昨日のことだろうか
瞬間の感覚の飽和を無限と呼ぶしかなかった
悲しい詩人の形見 憂鬱
古い壜のように閉じた時間から漏れてくる
甘く 饐えた 匂い
手も足もなく
顔もないのに
踊り おどけ 憂い
悲しんだり 喜んだり
音楽よ
姿も形もなくおまえは来て
草原に変えてしまう
風が吹き分け
夜明けの星のように遠い奇跡が
掌を冷たく駆け抜ける
ナイフのような軌道
捕らえられた言葉が震えている
朝露光る蜘蛛の巣で
夜を愛し続けて死んで往く
孔雀の翅を持つ蛾のように
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