嘘言器官/大覚アキラ
いつの頃からだろう
眼をギュっと瞑ると
赤い滲みがグルグルと回るんだ
だから
うたた寝すると
見るのはいつも赤い渦の夢ばかり
真っ暗な
黒よりも黒い真っ暗な中に
無数の赤い渦がゆっくりと回る
ところで
誰も知らないことだが
おれの耳の付け根の辺りに
他の人間には無い特殊な器官がある
鮫のロレンチーニ器官に
よく似た働きをするこの器官
父方の血統特有の遺伝らしい
猟師だった曽祖父は
この器官のお陰で
伝説的な熊狩りの名手だった
というのは
すべて
真っ赤な嘘
いつの頃からだろう
自分にまつわる
くだらない物語をでっち上げて
さも訳アリみたいに
他人に話すようになったのは
そうだ
きっと
あの赤い滲みが
眼をギュっと瞑ると
グルグルと回るようになってからだ
ところで
今の話
信じるかい
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