哀愁列車/wakaba
優しい夕陽が沈んだから
僕は列車に乗り込んだ
枯れた汽笛の音が鳴り響いて
列車は静かに発車した
車両には僕以外誰もいなかった
心地のいい空間だった
がたんごとんと揺れる音が
夜の訪れを不規則に包み込んだ
窓の外を眺めていた
薄暗い田んぼの真ん中
知らない亡霊が手を振っていた
もの寂しげな顔をして
僕に向かって手を振っていた
僕は手を振り返さなかった
いじわるしようとしたわけじゃない
やきもきしていたからでもない
そういうのが少し苦手だった
なんだか嫌だと思ってしまった
僕はただじっと亡霊を眺めていた
亡霊はいつまでも手を振っていたけれど
あっという間に視界から消えた
頭の中で唄が鳴り響いていた
懐かしい唄だった
歌詞がわからない唄
音色だけ聴き覚えのある唄
ひりひりした頭を溶かすようだった
僕はひとり唄っていた
もどかしい気持ちを抑えながら
下手くそな鼻唄で唄っていた
列車の向かう先さえ忘れて
中身のない唄をひとり唄っていた
優しい夕陽が沈んだ夜
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