旭ヶ丘1890番地の記憶/板谷みきょう
ていたら
ガラスの破片で
右足の中指をざっくりと切ったのだ
真っ赤な血がいっぱい出て
止まらなくて
吃驚し過ぎて水溜りの傍に
しゃがみ込んだままで大泣きした
履いたゴム靴の中が
ヌルヌルだった
野球帽に半ズボンと
汚いランニングシャツなのに
旭ヶ丘高校の女子生徒がおんぶして
家まで送ってくれた
背負われたままで
ずっと泣き止まぬボクに
荒い息で優しく声を掛け続けてくれた
何を話しかけてくれていたかは
覚えてないけど
短い髪に首筋に汗と大きな背中
家に着いてからのことも
覚えてない
当時は
あの女子高生のお姉さんは
大人に見えたけど
本当は
まだまだ子供だったと思う
思い出そうとしても
右足の中指の傷跡のように
年と共に薄れていくばかりなのだ
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