ヘビトンボ/ただのみきや
光が濁っている
花粉のように
ここは
朝なのか
もうずっと前
愛した
あの誰でもない……誰か
夜の湿り
かさねた翅
月の淡い幕に覆われて
昨夜のことか
精をささげ
空っぽの殻だけが
触覚は震えている
記憶の
なにかを手繰っている
なにか
なにかが
ああ
仲間がいた
灯りに群れ
夜気に舞う
誰も彼もが
歓喜の匂いに酔いしれて
触覚は震えていた
逢いたい
もういちど
空の殻へ
乾き切る前に
手繰ろう
微かな匂いの糸
空気の混濁と波動を
仄暗い樹々の葉裏
水辺の葦の頂き
凹凸のない石壁
あの蜘蛛の巣に
よく似た
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