ヨリオスフィア/平井容子
 
1.昔日


白いちじく
くるみ
黒ごま
凍ったラズベリ
松の実
メープルシロップ

海原のような対岸に向かい合って座って
きみが指をしゃぶりながら笑う

もつれる後悔
今はもうどうしようもなくまずいきみのヨーグルト



2.ヨナヨナビール


他人のまま桜は散った
灰月が見ている
坂だらけの街のしこめのダンス

ふと松井冬子の桜の絵を思い
ブレーカーは落ちた



3.バタア

午前12時すぎ不動産屋の男が訪ねてくる
耳のそうっと裏のところで古い電話の鳴る音

おなかの上に置かれた
枯れた観葉植物を見せてあげる
嫌がりながら喜ぶ
他人であるあなたがたへ

わたしは一番とおいわたしを食うことで近づくのです

床の上の冷え切ったナポリタンは
あらゆる指が絡みついて
まるで光のようになっている






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