ナ・ツ・メ・ロ/ホロウ・シカエルボク
 
り込んだとたんに降り始めて
「夕立に勝った」とぼくらはハイタッチした
カチンときた空がそれからしばらくの間
うんざりするほどの雨を降らせつづけた
うんざりしたところでぼくらは「まいった」「まいった」と叫んで
それでようやく許してもらえた
ちょっとでも機嫌を損ねたらまた降りだしそうな気がして
JRの駅まで全速力だった
自分の降りる駅に着くまで
きみはずっと眠っていた

嬉しさも悲しさも
勢いづいていた遠い夏の日が
あの日の雨のように急にとなりに寄り添って戸惑っている
あの日の海の家は数年前に壊されて
三流のアメリカン・グラフティみたいなカフェになった
ぼくがそれを見つけたとき最初に思ったことは
「もうこの海で雨宿りはできない」なんてことだった


馬鹿みたいにびしょ濡れになりながら
ぼくは駅を目指すにちがいないと


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