鉄/黒川排除 (oldsoup)
 
列車だったものは矢のように鋭く大地を焦がした、男はその矢に背中を打たれて、ひとつの母音とふたつの子音で出来たまったく奇妙な叫びを上げた。
机には液体がこぼれていて、それが床に滴り落ちている。床には水たまり。どこから液体がこぼれているのかはわからない。しかし男はそこから入ってくる。そうして己の罪状を勝手に口走る。滴り落ちている軌跡が背中に、水たまりにひざを下にした足がだらり、机の上には腕と首と頭がごろり。そのすべてが一枚の制服に覆われる。振り返ろうとしている真っ暗な背中。トゲの付いた棍棒が冷たい手に握られて。そしてみっつめだ。警官は男を殴り殺した。その音、男だ、それは生きている──男だ! 警官にしてみればその男は小さすぎた。そのとき初めてドアは完全に閉められ、警察署はゆっくりと後方に溶闇していく。列車は動き出したのだ──何の前触れもなく。石炭、石炭、石炭──やがてはぜんぶ石炭に。
戻る   Point(0)