鉄/黒川排除 (oldsoup)
 
その男は何の前触れもなくそこにいた。男は普段からドアを開けたり閉めたり、シャッターを上げたり下ろしたり、窓を外したりはめたりしていた。と、その過程で、玄関に蚊が止まっているのを発見した。男はそれを見るなり潰しにかかったが、生き返らすことは、ドアを閉めるようには、出来なかった。振り返ると、ドアは開き、シャッターは上がり、窓は外れていた。そして手には微量の血が付着していた──人間のものだった。男はそうして警察に出頭するのだった──午前十一時のことだった。警察署は三百キロメートルも離れていた──男のこころと同じように。
列車に乗った男はやはりドアを開けたり閉めたり、窓を外したりはめたり、シートを倒した
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