街を抱く街/あおい満月
 
いる。
(バベルの塔)
よく似ているが、
人はいない。
けれど塔にも人の気配がする。
どこからかパンを焼く匂いがする。
一軒のパン屋があった。
こんがりと焼けたパンたちが、
私を見ている。
ひとつ買おうと店員を呼んだが、
誰も出てこない。
あきらめて立ち去ろうとした瞬間、
腹部に何かを感じた。
まるであのパンを食べたあとのような
満腹感だ。振り返ると、
パンがひとつ減っている。

不思議な街だと思いながら、
通りを進むと、
気がついたら家の前にいる。
なかにはいると、
母親がうたた寝をしている。
のどかな日曜日だった。
初夏の午後は、
時々私に幻を見せる。
夏草の茂みに、
何かが見えた。
白い光がきらり、
風に跳ねる。



戻る   Point(4)